夜の辛夷
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山本周五郎 短編作品
発表年 | 発表誌 |
昭和 30 (1955) 年 | 週刊朝日別冊 |
著者名 | 作品名 |
山本周五郎 | 夜の辛夷(こぶし) |
時 と 所
江戸時代 江戸市中
主な人物
- お滝 二十四歳、根津権現まえの岡場所「吉野」で
「あたしは自分の子を育てるためならなんでもする、紅白粉で皺(しわ)も隠すし、必要があれば年もごまかす、・ ・ ・ 」 - 元吉 二十八、九 金ばなれのいい、お滝の馴染み客になった
Memo
「あら、あけっ放しなんかで、風邪をひくわよ」
「あの花はなんだ」 と彼が訊いた。
お滝は「どれ」といいながら、裾のほうへまわって窓際へいった。 少し暖かすぎる晩だったけれど、十二時をすぎたので、さすがに気温が下り、窓際に立つと寒いくらいだった。 板塀の向うを見ると、まっ暗な樹立の中に、高く、ほのかに白く、ぽつぽつと咲きだしている花があった。
あの白いの、とお滝は訊き返した。 うん、と彼はいった。 あれはね、ええと、知ってるのよ、ええと、なんていったかしらね、ここまで出ているんだけれど。 木蓮か、と彼が訊いた。 いいえ、違うの、花はちょっと似ているけれど違うのよ、いま思いだすわ、とお滝は衿を合わせながらいった。
『夜の辛夷』文中より
収録本
出版社 | ISBN |
新潮社 新潮文庫 | 978-4101134147 |
タイトル |
山本周五郎 『おさん』 文庫本 | 収録作品 |
青竹 夕霞(ゆうもや)の中 みずぐるま 葦(あし)は見ていた 夜の辛夷 並木河岸(なみきがし) その木戸を通って おさん 偸盗(ちゅうとう) 饒舌(しゃべ)り過ぎる |
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おさん (新潮文庫)
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