桑の木物語
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山本周五郎 短編作品
発表年 | 発表誌 |
昭和 24 (1949) 年 | キング |
著者名 | 作品名 |
山本周五郎 | 桑の木物語 |
時 と 所
江戸時代 江戸城下
主な人物
- 泰春院 二十三歳で亡くなられた先の殿さま浄松院の一子 六万三千石の藩主 「若さま」のころは信太郎(のぶたろう)、のちに正篤(まさあつ)
- 土井 勘右衛門 先殿のとき留守居役(世襲)より側御用に召され老職を兼ね信任もっとも篤く、のちに世子(せいし)信太郎君の御養育を兼ねる 悠二郎のお祖父さん
- 土井 悠二郎 勘右衛門により生れるとすぐに船宿「舟仙」にあずけられ、七歳で生家の土井家にひきとられ、八歳で若君の「御学友」にあげられる
Memo
「うまいねえ、こんなうまい物は初めてだ、これなんの実なの」
「桑の実さ、こいつを喰べると口ん中じゅう紫色になるんだ。 ほら見てみな、ね」
「本当だ、若のもなってるかね」
二人は互いに口や舌を見せあい、おはぐろを付けたようだと笑いあった。
九月に上屋敷へ帰ると、若君は庭師に命じて桑を二本植えさせた。 庭師はそんなものはお屋敷の庭へ植えるものではないと云い、なかなか承知しなかったが、若君がどうしてもきかないので、それでは内緒ですからと云って、日月亭の裏のところへ二本植えた。
「こっちは若、こっちはおまえのにしよう」
若君は悠二郎にこう囁(ささや)いた。
「これから毎年二本ずつ植えるよ、そうしてたくさんなったら、家中の者みんなに食わせてやるのさ、みんなうまいのでびっくりするよ」
明くる年も下屋敷をさかんにぬけ出した。
『桑の木物語』文中より
収録本
出版社 | ISBN |
新潮社 新潮文庫 | 978-4101134277 |
タイトル |
山本周五郎 『あとのない仮名』 文庫本 | 収録作品 |
討九郎馳走(とうくろうちそう) 義経(よしつね)の女(むすめ) 主計(かずえ)は忙しい 桑の木物語 竹柏記(ちくはくき) 妻の中の女 しづやしづ あとのない仮名 |
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あとのない仮名 (新潮文庫)
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