藤沢 周平
夢ぞ見し
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藤沢周平 短編作品
発表年 発表誌
昭和 52 (1977) 年 小説現代
著者名 作品名
藤沢周平 夢ぞ見し

時 と 所

江戸時代  某城下

主な人物

Memo

 昌江は茶の間で縫物をしている。 同じ部屋で、縁側に近い畳の上に、啓四郎が行儀わるく腹ばって、熱心に読本(よみほん)をめくっている。
 夏も一番暑いところはすぎて、七ツ(午後四時)近くになると、風がいくぶん涼しくなる。 軒から吊るした日よけの簾(すだれ)が、時どき風に揺れる。 そのたびに、庭を照らしている日光が、刺すように眼に飛びこんでくる。 日射しだけは、まだ夏が過ぎたわけではないというように、猛(たけ)だけしかった。
 昌江は時どき眼をあげて、啓四郎を見る。 そして何となく微笑がこみあげてくるのをそっと押える。
 だんまり亭主にそばにいられると、それだけで暑くるしい感じになるが、おなじに黙っていても、啓四郎のことはあまり気にならない。 それどころか、心の中に、少し浮ついた楽しげな気分が動く。 亭主には悪いが、姿、形に歴然と差があるのだからいたしかたない。 やはり美男子といる方が女は心楽しいのだ。 さまざまの夢が見えてくる。 甚兵衛といても、夢など見えはしない。
                     『夢ぞ見し』文中より

収録本

出版社 ISBN
文藝春秋  文春文庫 978-4167192051
タイトル
藤沢周平  『長門守の陰謀』  文庫本
収録作品
夢ぞ見し  春の雪  夕べの光  遠い少女  長門守の陰謀
出版社 ISBN
文藝春秋 978-4163628103
タイトル
藤沢周平短篇傑作選 1  『臍曲(へそま)がり新左』  単行本
収録作品
紅の記憶  証拠人  臍曲がり新左  一顆の瓜  冤罪  竹光始末  遠方より来る  雪明かり  小川の辺  木綿触れ  夢ぞ見し
出版社 ISBN
文藝春秋 978-4163642505
タイトル
藤沢周平全集 第五巻  単行本
収録作品
闇の顔  小川の辺(ほとり)  木綿触れ  夢ぞ見し  一夢の敗北  小鶴  梅薫る  孫十の逆襲  泣くな、けい  泣く母  飛べ、佐五郎  山桜  帰還せず  報復  弾む声  切腹  花のあと -以登女(いとじょ)お物語-  雪間草  悪癖  麦屋町昼下がり  三ノ丸広場下城どき  山姥橋夜五ツ  榎屋敷宵の春月
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