おとくの神 - 藤沢周平短編時代小説

藤沢周平

おとくの神

藤沢周平　短編作品

発表年	発表誌
昭和５６（１９８１）年	小説宝石
著者名	作品名
藤沢周平	おとくの神

時と所

江戸時代　　江戸市中

主な人物

仙吉（せんきち）　　おとくの連れ合い、三十歳　もともとは桶（おけ）屋職人だったが、いまの裏店に来てからも、五年の間にざっと十何度か職を変えている
おとく　　二十五歳、仙吉が暮らしの頼りにならないので、日雇い稼ぎに出て力仕事をこなしている　おとくの方が亭主より背丈があり太ってもいる、蚤（のみ）の夫婦であった

Ｍｅｍｏ

　おとくは台所から、暗い茶の間に入った。　古びた茶箪笥のひきだしをあけると、奥から小さな人形を取り出した。　素焼きの、長い間に手垢（てあか）によごれて目鼻もはっきりしなくなった土器人形である。　仙吉と喧嘩して泣いたあとなどに、おとくはその人形を取り出して手でなでる。　大きな身体のおとくが、掌（てのひら）に入るような土器人形をいじっている様子は滑稽にみえるらしい。
　「何だい、またその人形か。　そいつはおめえの宝ものかい」
　などと、仙吉は鼻先で笑う感じでそう言うのだが、本人はとっくに忘れているらしかったが、人形は二人が夫婦になる前に、仙吉がおとくに買ってやったものなのである。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　『おとくの神』文中より

収録本

出版社	ISBN
新潮社　新潮文庫	978-4101247175

タイトル

藤沢周平　『霜の朝』　文庫本

収録作品

報復　　泣く母　　嚏（くしゃみ）　　密告　　おとくの神　　虹の空　　禍福　　追われる男　　怠け者　　歳月　　霜の朝

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出版社	ISBN
文藝春秋	978-4163642307

タイトル

藤沢周平全集　第三巻　単行本

収録作品

驟（はしり）り雨　　遅いしあわせ　　泣かない女　　贈り物　　歳月　　ちきしょう！　　虹の空　　運の尽き　　おばさん　　亭主の仲間　　時雨（しぐれ）みち　　幼い声　　夜の道　　怠け者　　盗み喰い　　滴る汗　　追われる男　　おさんが呼ぶ　　禍福　　おとくの神　　失踪（しっそう）　　帰って来た女　　おつぎ　　逃走　　夜消える　　女下駄（おんなげた）　　遠い別れ　　鬼ごっこ　　冬の日　　寒い灯　　にがい再会　　永代橋　　踊る手　　消息　　初つばめ　　遠ざかる声

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